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本多忠次邸の建物の様式や特徴

更新日:2010/07/20

『建築様式と平面形式の特徴』
建築様式は、赤い瓦や平坦な白い壁、そして、正面の窓の装飾的な鋳鉄製の格子といった特徴から、スパニッシュ様式に属するといえます。この様式は、大正後期頃から盛んにわが国に紹介されたアメリカ住宅によく見られる様式であり、わが国でも昭和初期の邸宅建築に好んで用いられました。また、車寄をみると、扁平のアーチが見られ、しかも、そのアーチ中央部の先端が尖っています。これはイギリスの中世に好まれたチューダー・アーチです。このことから、本多邸は、スパニッシュ様式を基調に、一部チューダー様式を加味しているといえます。


外観の見せ場の南立面は、魅力的な構成とするために、壁から外に張り出した出窓や半円状の突出部、さらには、半円アーチを三つ連続させるなど、凹凸の変化を付けています。開口部の処理が単調ではありますが、全体としては端正な構成に仕上がっています。また、その庭先にはT字形の小さなプールがあります。南正面右の半円状の突出部の上にある三角屋根の妻面の最上部とプールに水を吐き出す壁泉には、野獣面の装飾が付いています。建物は陸の王様の獅子、プールは海の王様のシャチを現わしているといいます。その野獣面がお互いに向き合うことで、建物と庭に一種の緊張感が感じられる、極めて個性的な構成を見ることができます。


平面形式は、建物の中央に中廊下を配する中廊下型の住宅といえます。具体的には、西端に車寄・玄関があり、玄関土間から二階へ通じるコの字型の大階段を配したホールが続き、階段裏には内玄関が置かれています。このホールから突き当たりの東端の内玄関まで4尺5寸幅の廊下が一直線に延びています。この中廊下型の平面形式の特徴は、この東西に走る中廊下で建物が南と北に二分されることです。そして、一般には、日照等の住環境のよい南側に接客の場や、家族の生活の場である居室が設けられ、北側には使用人の働く場である台所や使用人の詰め所、さらには、便所や浴室といった生活に必要な付帯部分が設けられることになります。本多邸でも同様に、南側に「応接室」「団欒室」「食堂」といった部屋が配され、北には「使者之間」「台所」「第一女中室」といった部屋が配されています。このような部屋配置は二階でも変わりません。また、この中廊下を見ていくと、大階段裏の「食堂」と「第一女中室」を挟んだところに扉が設けられ、中廊下を東と西で二分できるように工夫されています。この点は二階でも確認され、「客間」の前の広間と便所の間の扉で廊下が東西に二分されています。この扉で区分された東と西の各部屋を見ていくと、玄関のある西側は接客に関連する部屋、東側は家族の生活の部屋というように巧く分離されています。言い換えれば、本多邸は、南と北にそれぞれ家族の生活のゾーンと、使用人の場のゾーンを配すると共に、西側には接客の場という表のゾーン、東側には生活の場という裏のゾーンという領域を二重に重ねた平面構成といえます。このような二重のゾーンの組み合わせは、接客を重視し、かつ、使用人の存在が当たり前の住まいならではの考え方といえ、その意味では、まさしく、戦前期の平面形式を取った住まいといえます。

 

 

『もう1つの特徴としてのインテリア』
この住宅のもう1つの特徴は、戦前期の家具や照明器具がそのまま残されていることです。すなわち、家具や照明器具といったインテリアに関しても、本多氏の関心は強く、自ら家具や照明器具といったものを選定し、「寝室」に置かれている家紋の入ったベッドは、デザインそのものも手がけたといいます。室内全般を見渡せば、「団欒室」や「食堂」、そして、「書斎」は車寄に見られたチューダー風の共通した装飾による重厚な家具が用いられていますが、二階「書斎」横の「茶室」は、色合いは伝統的な濃い朱色の椅子と黒色のテーブルながら、そのデザインは椅子の足に金属を用いたアール・デコ調の極めてモダンな家具となっています。また、「寝室」も壁紙は銀色を主体とし、家具も面構成を強調したアール・デコ調のものとなっています。このアール・デコは別名1925年様式ともいわれ、わが国では昭和初期に流行しました。その意味で、これらのアール・デコのデザインは、この建物の造られた時代を代弁しているといえます。

 

( 近代住宅 70年の記憶 昭和洋館物語 ~世田谷 本多邸 夢の郊外住宅展~ 本多邸の再生を考える会 内田 青蔵 )

 

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